少子化、信徒教員の減少、迫る教育改革 カトリック学校の現状と将来

少子化、信徒教員の減少、迫る教育改革 カトリック学校の現状と将来
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幾つかの制約のある私にとって、カトリック社会問題研究所から恵送されてくる、『福音と社会』誌は、貴重な情報源です。本公演も、同誌の案内を通して知り、編集会議で取材を提案しました。興味深く本記事を味読しています。

少子化、信徒教員の減少、迫る「教育改革」 日本のカトリック学校の現状と将来

カトリック学校の過去・現在・未来」と題して講演した品田典子氏(日本カトリック学校連合会事務局長)=10月20日、真生会館(東京都新宿区)で

日本のカトリック学校は今、少子化や公立志向の増加という日本社会全体の傾向や、それまで学校を支えてきた司祭・修道者の高齢化や信徒教員の減少など、カトリック学校独自の課題も多く抱えている。そしてさらに、2020年の大学入試改革を含む戦後最大規模といわれる「教育改革」が迫っている。そうした中、カトリック教育界の現場で活躍する人たちを講師としたセミナーが開催された。

セミナーを主催したのは、カトリック社会問題研究所。同研究所は毎年、さまざまなテーマのセミナーを開催しており、今回で55回目。カトリックの学校教育については、過去にも何度か取り上げてきた。

今回のセミナーでは2日間にわたり計5つの講演が行われ、1日目には、日本のカトリック学校・幼稚園800以上が加盟する「日本カトリック学校連合会」の品田典子事務局長と、不登校児のためのフリースクール「聖母の小さな学校」(京都府舞鶴市)の梅澤良子副代表が講演した。

60万人が学ぶ日本のキリスト教主義学校

品田氏によると、日本には2018年度現在、大学18、短大13、小中高259(小50、中96、高113)、幼稚園(認定こども園を含む)515と、計805のカトリック学校・幼稚園が存在する(法人数は220)。在籍数は約20万人に上り、プロテスタントの約40万人と合わせると、日本では実に60万人がキリスト教主義の学校・幼稚園で学んでいる。

しかし、少子化や公立志向の増加など、経営的な課題のほかに、宗教科の教員不足や信徒教員の減少、カトリックの行事の形骸化など、カトリック学校としてのアイデンティティーの継承自体が大きな課題となっている。

「少し前までは『宗教の授業が少なくなってきた』『儀式が形式的になってきた』など、教育内容に関する問題が話題に上がっていました。しかし今は、カトリック学校としての枠組自体が大丈夫か、というような状況です」と危機感をあらわにする。

日本におけるキリスト教学校の歩み

日本におけるキリスト教学校の歩みは、大きく3つの時代に分けられる。キリシタン禁令の高札が撤去された1873(明治6)年から昭和初期にかけては、海外から多くの宣教師が来日し、福音宣教を目的に多くの学校を始めた。次に、終戦後から1970年代にかけては、戦災孤児の救済や教育復興などのために、プロテスタント各教派の伝道局や、カトリックの修道会が多くの学校を設立。戦後日本の教育界に大きな貢献をした。そして21世紀以降の現在がある。

少子化、信徒教員の減少、迫る「教育改革」 日本のカトリック学校の現状と将来
今では珍しい大きなコルネットをかぶったシスターたちの写真を紹介する品田氏。「初期に学校を建てたシスターたちは、二度と故郷の地を踏むことはないだろうという思いで日本に来たはず。このバトンを受け継ぎ、次の世代に渡していかないといけない」と話す。

教育改革をいかに追い風にできるか

その上で、カトリック学校の将来を考えるとき、品田氏は教育改革をいかに追い風にできるかが重要だと話す。教育改革をめぐっては、否定的な見解を持つ教育関係者も多い。しかし品田氏は「これまでの知識編重の教育では多様な社会について行けない。自分で考える子どもたちを育てなければ」という問題意識から出たのが、今回の教育改革だと指摘する。「日本の教育の在り方を抜本的に見直す動き」であり、欧米諸国も同じ流れを取っているとし、「おそらく逆戻りすることはない」と言う。

政府は教育改革の基本理念の中で、「自立・協働・創造」の3つの理念の実現に向けた生涯学習社会の構築を掲げている(第2期教育振興基本計画)。品田氏はこれを、しっかりとした「自分軸」を持ちつつ、他者を受容して協働し、創造的な価値を生み出すことだとし、カトリック学校が目指す教育と矛盾しないと考える。特に、自らの揺れることのない軸(自分軸)の形成に対しては、キリスト教の価値観や人間観は大きな助けになるはず。日本のカトリック学校は、あくまでも日本社会の中にある存在であり、その社会全体の流れである教育改革を踏まえながら、それといかに「融合」していけるかを探求していくべきだと語った。

非信徒教員との協力、ビジョンの明文化

信徒教員の減少については、非信徒教員との協力体制の構築が重要だという。品田氏によると、教育現場では信徒教員が非信徒教員からIS(Islamic State=過激派組織「イスラム国」)ならぬ、CS(Christian State)と呼ばれてしまう現実があるという。一方で、非信徒であってもカトリックの考えに理解を示し、適合する感性を持った人は多くいるとし、平等で双方向的な「対話の場」の設置を提案する。

少子化、信徒教員の減少、迫る「教育改革」 日本のカトリック学校の現状と将来
セミナーには、カトリック社会問題研究所の会員のほか、学校関係者も参加した。

また、カトリック学校としてのビジョンの明文化も重要だという。これまでは、設立母体の修道会のシスターや神父たちが学校にも多く関わっており、明文化せずとも彼らの「生き方」自体が自然とその方向性を示していた。しかしそうした人々の高齢化が進み、非信徒教員が多数を占める中では、カトリック学校としてのアイデンティティーを明確な形で示していくことが重要だという。

品田氏は最後に、昨年12月に上智大学で行われたローマ教皇フランシスコと学生との映像回線を通じた対話イベントで、教皇が語った言葉を取り上げた(関連記事:「他者のために奉仕を」教皇フランシスコ、映像回線を通じて学生らと対話)。学生から「学ぶことの意義」を尋ねられた教皇は、次のように答えたという。

「私たちは3つの言葉を持っています。頭、心、手です。それらを他者のためにより良く使えるよう、バランス良く育成すること、それがカトリック教育の目的です」

※ 梅澤良子氏(「聖母の小さな学校」副代表)による講演については、後日お伝えします。