『シフラとプア』(再修正版) 脚本 平井正道

『シフラとプア』(再修正版)
脚本 平井正

(エジプト王の役人の前に、シフラ、プアが立っている。そこに、役人の手下が、へブル人の男を引っ立ててくる。)

男「すみません、お役人様。許してください・・・。」

役人「貴様、へブル人のくせに、我々の倉庫から食料をくすね取ろうとしたそうだな。ああ?」

男「すみません、もう何日も碌に食べれていなくて・・・。それに、家族も全員ひもじくて・・・。」

役人「へブル人の分際でパロの食料をくすね取ろうとするとは、良い度胸をしているな。まあ、コソ泥の意地汚い男が、食料をつまみ食いしようとしたことをいつまでも怒っているほど、パロは心の狭いお方ではない。お腹が空いていただけであれば、許してやろう。だが、絶対に許せないのは、薄汚いへブル人共が、我々に反逆しようとすることだ。お前は、仲間のへブル人と企んで、我々に逆らうことを考えているのだろう!」

男「そんな、とんでもありません。自分と、家族のお腹を満たしたかっただけなんです・・・。」

役人「お前が正直者かどうか、じっくりと痛めつけて判断する必要があるな。こいつをたっぷりとかわいがってやれ。」

男「やめてください!嫌だ!助けて、連れて行かないで!助けて!」

(男、連れ去られる)

役人「さて、シフラとプア。報告を聞かせてくれ。」

シフラ「はい、お産の管理はしっかりと出来ています。」

役人「嘘をつくな。私はお前たちに、生み台の上を見て、もしも男の子ならそれを殺せと命じたはずだな。だが、へブル人の男の子は増え続けているそうじゃないか。どういうことだ?」

シフラ「それは・・・。」

プア「それは、へブル人の女はエジプト人の女と違って活力があるので、助産婦が行く前に産んでしまうのです。」

役人「ふん。へブル人というのは、赤ん坊の頃から小賢しくて悪運の強い奴らのようだな。家畜を飼うしか能のない、お前たちへブル人が増え続けていくことは、実に不愉快だ!エジプトの不幸だ!
これからは赤ん坊が産まれてくる前に、もっと急いで立ち会うようにすることだな。少しでもさぼってみろ。お前たちも、お前たちの家族も、痛い目を見ることになる。お前たちの民族も、どうなるかわかったもんじゃないぞ。いいな。」

(役人、立ち去る。)

シフラ「ああ、プア。どうしましょう。もうこれ以上、男の子たちを生かしておくようにごまかすのは無理だわ・・・。」

プア「シフラ、神様を信頼しましょう。私たちの父であるイスラエルに、神様はこう行ったのだから。『わたし自身があなたと一緒にエジプトに下り、また、わたし自身が必ずあなたを再び導き上る』と。」

シフラ「そのことは幼い時から聞いているわ。だけど、こわいのよ。神様がそう語ったのは、エジプト人がまだ甘かった頃のお話でしょう。あの時と時代は変わったわ。今のエジプト人は、イスラエルの民を恐れている。少しでも刺激したら、いつでも痛めつけにやってくるわ。」

プア「神様は何もかもお見通しよ。その上で、私たちにエジプトに下ることを命じられたのよ。確かに、いくつかの点で状況は深刻だけど・・・。」

シフラ「いくつか、なんてもんじゃないわ。エジプト軍が最強なことはよく知られているでしょう。あの大軍が一瞬にして消え去りでもしない限り、到底太刀打ちできそうにないわ。それに、エジプトの国力。想像を絶するような飢饉でも起こらない限り、エジプトは少しも揺らがないでしょうね。」

プア「神様が将来なさることを予測することは不可能よ。でも、神様を信頼することはできるわ。神様が、エジプトに下ることを命じて、再び約束の地へと導くと言われたのだから、きっと、神様は素晴らしい御業を行って、助けて下さるはずよ。」

シフラ「そうね。神様、どうぞ赤ちゃんのいのちを助けて下さい。それから・・・どうぞ、私たちも首になりませんように。」

【終】