私の甥・義人君の親友平井正道兄の脚本 その1 『花も』 脚本 平井正道

私の甥・義人君の親友平井正道兄の脚本 その1

『花も』
脚本 平井正

ナレーター「ここは、町のはずれにある工場。工場の主人は、町の人たちから慕われていた。ある日、工場の主人が遠くに旅立つというので、工場を継がせようと、一人の少年を呼び寄せた。」

(少年、工場の中を嬉しそうに駆け回って)
少年「すごいなあ…!僕、子どもの頃からずっとこの工場に憧れていたんです!工場の主人である貴方のことも、ずっと尊敬しておりました!まさか、こうやって見渡すことができる日が来るなんて…。本当に、本当に僕にこの工場を任せてくださるのですか!?」

工場の主人(声だけ)「私がここに戻って来るその日まで、この工場を君に預けたいんだ。この工場があることを、私と一緒に喜んで欲しい。」

少年「でも、僕なんかでいいのでしょうか…?」

工場の主人「君にこそ、この工場を託したいんだ。君が不安なとき、いつでも私を思い出してごらん。何事にもしっかり感謝をするんだよ。」

少年「僕、精一杯やります!貴方のために!」

(少年はテーブルに座り、作業の準備を始める)

工場の主人「君は、私と一緒にいたことを、いつか忘れてしまうだろう。どうして働いているのか、その意味を忘れてしまうだろう。だけど、私の息子にあたる者が、いつか君の下を訪れる。野の花を見なさい。そうずれば、私の恵みの豊かさが、君にもわかるだろう。」

少年「(主人の言葉は聞こえず)よおし、今日から精一杯働くぞ!がんばって、この工場をどんどん大きくしていくんだ。そしたらきっと、毎日楽しいだろうな。がんばるぞ!」

(少年はハンマーを持ち、リズミカルにテーブルを叩き始める。)
トン、トン、カン。トン、トン、カン。トン、トン、カン。トン、トン、カン。トン、トン・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ナレーター:そして、長い年月が流れた。
(ハンマーの音が重くなる)・・・・・トン、トン、カン。

(かつての少年、老け顔になる。眼鏡をななめにかけ、声は低く、いつも不機嫌そうな表情をしている)

監督(元少年)「はあ…。忙しい毎日だな。世の中は大きく変わっていく。忙しすぎて、至った今何をしていたのか忘れてしまうぞ!」

監督「おや、銀行からの電話のようだ。」

監督「はい、もしもし。いつもお世話になっております。ええ。この前お話させて頂いた融資の話ですね、お願いできますかね?え?今後はもっと財務状況をチェックされるということですか…。ええ、もちろん問題ありませんよ!いつでも伺ってください!はい、それでは。」

監督「こうなったら、リストラしかないな。」

監督「俺だ。お前に任せているあの事業部だがな、もう畳むことにしようと思うんだよ。は?何?50人の首より、今は経営の合理化だよ!そんなもんいちいち気にするな!ん?なんだと…?お前、今日限りでやめるったって、どこに行くんだ?他の幹部と一緒に引き抜かれただと…?ふん、俺はお前の知らないところでちゃんと友だちを作ってたんだからな!構うもんか!」(ガチャ)

監督「落ち着け…。まずは仕事だ。いや、銀行に電話だ。いや、仕事だ、いや、電話だ…ああ…」

(ギターの音色が聞こえる(きよしこの夜?)。見上げると、見知らぬ人がギターを抱えて座っている。)

監督「だ、誰だ、お前は!いつからそこにいた?」

謎の人「僕?僕はこの工場の主人の息子で、この工場ができたときからずっとここにいたんだよ。」

監督「何?ははっ!こんな状況で、よりによって頭のおかしな奴が現れるとは…。確かに俺より前に主人はいたとは思うが、そんなことはもう俺には関係ないね!悪いが、お前の話に付き合ってる暇はないのさ。」

謎の人「父は、今もあなたを見守っている。そして僕も、あなたと同じ苦しみを背負ってとりなしをしている。」

監督「そうか…。お前、友だちが欲しいんだな…。」

監督(紙をまるめる)ほら、これをやるから、もう帰ってくれ。」

(物を投げつけ、謎の人にぶつける。監督、悲しげに床に座り込む。)

チリン(一つ目のベルが鳴る)

謎の人「父よ、彼らを赦して下さい。」

チリン(二つ目のベルが鳴る)

謎の人「私が与える水を飲む者は、決して渇かない。」

チリリリリリン(三つ目のベルが鳴る)

【天使たち、整列。監督を囲うように。】

監督「な、何の音だ?」

【金子天使長が指揮をとり、へロルさんが歌い始める。1番の「やがて〜」からみんなも歌い始める。それと同時に草間天使が監督の机に花を置く。監督が花を手に取り後ろを振り向いて驚くところで、藤木天使が天使の列の中に招き入れる。2番のサビで、みんなで腕を組む。】

(歌が終わり、監督がひざまずく。)

工場の主人「わたしは、あなたがたと共にいる。世の終わりまで。」

監督「ああ・・。主よ・・・。」

【「いと高き所に栄光が」を歌う】
【終】