「聖書をメガネに 桐生悠々の名を初めて聞いたあの時」の,小さくない恵みの波紋 しばらく経過後 再開⑥☆第十九話 マルタとマリア(ルカによる福音書 第十章三八〜四二)

「聖書をメガネに 桐生悠々の名を初めて聞いたあの時」の,小さくない恵みの波紋 しばらく経過後 再開⑥☆第十九話 マルタとマリア(ルカによる福音書 第十章三八〜四二)

第十九話 マルタとマリア(ルカによる福音書 第十章三八〜四二)
一行が歩いて行くうち、イエスはある村にお入りになった。すると、マルタという女が、イエスを家に迎え入れた。彼女にはマリアという姉妹がいた。マリアは主の足もとに座って、その話に聞き入っていた。マルタは、いろいろのもてなしのためせわしく立ち働いていたが、そばに近寄って言った。「主よ、私の姉妹はわたしだけにもてなしをさせていますが、何ともお思いになりませんか。手伝ってくれるようにおっしゃってください。」主はお答えになった。「マルタ、マルタ、あなたは多くのことに思い悩み、心を乱している。しかし、必要なことはただ一つだけである。マリアは良い方を選んだ。それを取り上げてはならない。」

エスさまは、神さまの思いが、どのようなものかを、人々にお話しになりながら、旅を続けていました。聖書の中にはイエスさまの言われたことに、「小鳥たちには寝る巣があるけれど、自分には寝るお家もない」と、おっしゃったことがあります。寝るときもないくらい、イエスさまは忙しかったのでしょう。
神さまを本当に分からない人々に、父なる神さまのことを知らせるお仕事は、それは大変なお仕事でしたから。そして、その生涯の終わりには、とうとう人間によって十字架につけられて死ななければならなかったことは、みなさんもよく知っています。

そのイエスさまが、ある日のこと、エルサレムという都へ行こうとして、都に近いベタニアという村にいらっしゃいました。その村には、マルタさんとマリアさんという二人の美しい姉と妹が住んでいました。この姉妹には、ラザロさんという弟もいたのですが、今日のお話は、お姉さんのマルタさんと妹のマリアさんのお話です。この二人は仲のよい姉妹なのですが、少し性格が違うのです。
お姉さんのマルタさんは、どちらかというと、よく気がききすぎるというのでしょうか、お家の中のお掃除ですとか、お料理を上手に作ることですとか、それはよく出来る人でした。妹のマリアさんは、お家の仕事ももちろん、好きでしたけれど、どちらかというと、静かに考えたり神さまのことを思ったりすることも好きでした。

エスさまは、エルサレムの都へ行く途中に、この二人の姉妹のお家にお泊まりになる約束をしていました。イエスさまは、久しぶりにマルタやマリアや弟ラザロとも、お会いするのをそれは楽しみにしておられました。イエスさまは、この三人の兄弟のことを、大変大切な友達だと思っていたからです。
姉のマルタは、もうだいぶ前から、イエスさまがお家にいらしたら、どのようにおもてなししようかと、あれこれ考えて、心まちにしていました。ですから、お家のお掃除をし、お花も飾ったでしょうか、そして、沢山の美味しい料理を作りました。とても忙しい思いで働き続けました。イエスさまが好きだったからです。

ところで、気がつくと先ほどまで一緒になって、お料理のこしらえなどを手伝ってくれていたマリアがいません。どこに行ってしまったのでしょうか。マルタはますます忙しく働いていました。「マリアはどこで何をしているのかしら。一緒に手伝って欲しいのに。」そんなイライラした気持ちになってきました。ふと、お隣の客間から、イエスさまが静かにお話をしていらっしゃる声が聞こえてまいりました。マルタも、実はイエスさまのお話も聞きたいのですが、お料理作りや、テーブルの用意に気がとられてしまっています。

客間の扉のすき間から、のぞいてみますと、なんと、妹のマリアがイエスさまのお話に耳を傾けて聞き入っているではありませんか。イエスさまの十二人のお弟子さんや、その他のお客さまたちの間に座って聞いているのです。男の人ばかりの中に、マリアが一人混じっているのですから、すぐ分かりました。
マリアの顔はとても静かで真剣です。じぃっとイエスさまの目を見つめて、お話を聞いています。イエスさまは、もちろん神さまの国のお話をしていらっしゃいます。マリアはそのお話が大好きでした。そして、今、イエスさまのお話を聞かなければ、明日は、イエスさまはもうエルサレムへ旅立ってしまわれ、おられないのです。マリアは、〝このとき〟を大切にしたい思いで一杯でした。ところが、お姉さんのマルタはイエスさまにこう言いました。「主よ、妹はわたしだけにもてなしをさせていますが、何とも思いませんか。わたしを手伝ってくれるように言ってください。」

すると、イエスさまはいとしいマルタですが、「マルタよ、マルタ、あなたはあれもこれもしようと沢山のことをかかえて、思いわずらっていますよ。わたしには、大ごちそうは必要ではありません。簡単なごちそうで十分なのですよ。それより、この世に必要なものは、ただ一つしかないのですよ。それは、神さまのことを知るという、こよなく良いもののことです。妹のマリアは、その良い方を選んだのだから、そっとしておいてあげなさい」とおっしゃったのです。
エスさまは、マルタもマリアもいとしい大切なお友達だと考えていました。そして、マルタもマリアもイエスさまのことを大好きでした。けれども、マリアは何はおいても、イエスさまの神さまのお話こそ大好きだったのです。イエスさまのことを心から信じていたからです。
一九九〇・一一・四