「今こそ声を上げなかったら・・・」  執筆者 : 宮村武夫

「今こそ声を上げなかったら・・・」 
執筆者 : 宮村武夫

クリスチャントゥデイで、すでに2回寄稿してくださっている日出忠英さん。彼の2回目の寄稿のタイトルは「今こそ声を上げなかったら、いつ声を上げるのでしょう」でした。そして今回、まさに日出さんは声を上げたのです。どんな声かといえば、実に感銘深い文章です。

気仙沼での被災から逃れ、現在定住している岩手県花巻市の市議会議長宛てに、沖縄へのあつい思いを込めて、以下に紹介する「日米地位協定の抜本的な見直しに関する請願書」を提出したのです。

この日出忠英さんとは、2009年夏、気仙沼バプテスト教会でただ1度お会いしただけなのです。しかし、その12月に私が脳梗塞を発症したこともあり、忘れることのできない出会いでした。事実、その後今日まで文通を継続しています。

日出さんはもともとご両親が喜んだ銀行員としての働きをなしていました。ところが、自分の故郷に庭園を造成したい思いが次第に募り、なんと銀行員の安定した職を辞して、東京農業大学造園科にそれなりの苦労を重ねて入学、修行を重ねて故郷で造園の仕事を積み重ねていかれたのです。後継者の心配をするほどの安定のさなかで、あの2011年3月11日に直面、文字通り全てを津波に流され、失ってしまったのです。

個人的なことを申し上げることが許されるならば、その危機的な避難のさなかに、私の著作集を持って出られたと沖縄に伝えてこられたのです。全てをのみ込む圧倒的な力にも断ち切ることのできない私たちの間の絆を、目に見えるかたちで示された思いをしました。

娘婿の郷里である花巻市に避難された後の生活の様子を沖縄で伝え聞く中で、特に深く印象に残った事実は、日出ご夫妻が、私の妻・君代の母教会である北上聖書バプテスト教会に出席なさるようになったことです。

日出ご夫妻の沖縄への心は、私たちが25年ぶりに沖縄から関東へ戻ってからも変わることがないばかりか、ますます静かに深まり続けておられる様子を感じておりました。そして、2回の寄稿に続けて今回、以下のような花巻市議会に対する請願書のコピーを送っていただいたのです。この採用されなかった請願書は、まさに今こそ上げられた声と深く私は心に刻みました。

沖縄滞在中、心ある沖縄の方々の思いが、「本土のあなたのおられるその場所であなたの声を上げ、あなたのできることをしてください。それが沖縄のために一番の力となることです」であったことを痛感していました。

不採用となったこの声を上げた事実、そのことが「石が叫び出す」(ルカ19:40)となると受け止めるのです。
沖縄の敬愛するあの方に、この請願書のコピーを送ります。
そして、この記事を読んでくださった方々の中から、あそこで、ここで、同様な不採用をものともせず、声を上げる方が出てくるようになるなら、今そのことが困難な私にとってなおこの記事を書く意味があると理解します。日出さんと私の文通は、私たちが召されるまで継続する恵みと、先取りの感謝をいたします。

日米地位協定の抜本的な見直しに関する請願書
紹介議員 増子 義久
件名:日米地位協定の抜本的な見直しについて

趣旨:沖縄県における元米兵による女性遺体遺棄事件を重く受け止め、米軍人・軍属らの特権を保障する「日米地位協定」の抜本的な見直しを求めること

理由:「日米地位協定」は1960(昭和35)年、「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約」――いわゆる「新安保」条約の締結に伴い、従来の日米行政協定に代わって条約化されました。
しかし、公務中に犯罪を起こした場合、米側の裁判権が優先されるなどその不平等性が以前から指摘されてきました。

沖縄県警のまとめによると、1972年の本土復帰以降の米軍人・軍属らによる刑法犯罪は5862件。うち殺人や強盗、放火、強姦などの凶悪犯罪は574件(737人)に上っています。
オバマ米大統領の歴史的な広島訪問を前にした5月19日、ふたたび元米兵による女性殺害・遺体遺棄という戦慄すべき事件が発生しました。
オバマ大統領は「哀悼と遺憾」の意を表し、安倍晋三首相は「日本人全体に強い衝撃を与えた」と語気を強めて抗議しました。さらに、服喪期間中の今月4日には女性米兵が飲酒運転で交通事故を起こし、県民2人に怪我をさせるという悪質事犯が続きました。

わずか0・6%の面積に米軍基地の約74%が集中する「基地の町」沖縄県では「基地あるがゆえの悲劇だ」として、沖縄県議会をはじめ県内41市町村議会のすべてが今月中に米側に対する抗議決議や日米地位協定の抜本的な見直しを求める意見書を可決する見通しになっています。この基地偏在の実態は逆にいえば「国民全体の安全を担保する役割の大半が沖縄に押し付けられている」ということを意味しています。

花巻市議会は昨年9月定例会で、安全保障関連法案の「廃止」を求める意見書を賛成多数で可決し、安倍首相ら政府関係者に提出しました。集団的自衛権の行使などを定めたこの法案によって、最大のリスクをこうむるのは当然のことながら、米軍基地の多くを抱える沖縄県です。

先月28、29の両日に行われた共同通信による世論調査では協定の改定を求める世論が71%に上りました。
花巻市宮沢賢治の精神をまちづくりの基本にすえ、将来都市像として「イーハトーブはなまき」の実現を掲げています。「世界がぜんたい幸福にならないうちは個人の幸福はあり得ない」という精神は私たちみんなの共有財産だと思います。

5年前の東日本大震災の際も賢治の詩「雨ニモマケズ」に背中を押されるようにして、世界中から支援の手が差し伸べられました。私自身、宮城県気仙沼市で被災しましたが、賢治精神のその善意に支えられてこれまで頑張ってくることができました。現在は当市に居を移してお世話になっていますが、賢治精神の大切さを改めて実感させられる毎日です。

基地を一方的に押しつけられ、日々犯罪の恐怖におびえ続けなければならない沖縄県民の心に寄り添い、一日も早く日米地位協定の抜本的な見直しをするよう、本土の地の地方議会に先がけて政府及び関係機関に意見書を提出していただきたく、ここに請願いたします。
平成28年6月9日
花巻市議会議長 小原 雅道 様
(請願者)
花巻市南万丁目1103−3−2−106
日出 忠英

◇宮村武夫(みやむら・たけお)
1939年東京生まれ。日本クリスチャン・カレッジ、ゴードン神学院、ハーバード大学新約聖書学)、上智大学神学部(組織神学)修了。宇都宮キリスト集会牧師、沖縄名護チャペル協力宣教師。2014年4月からクリスチャントゥデイ編集長。
http://www.christiantoday.co.jp/home/news/services/print.php?article_id=23113