【童話】星のかけら(1)冒険のはじまり・その1、その2 和泉糸子

【童話】星のかけら(1)冒険のはじまり・その1、その2 和泉糸子

ある暑い夏の夜のことでした。
ユキトはシュンスケとケンタといっしょに、留守番(るすばん)をすることになりました。
ほんとは、その日おじさんの家にお泊(とま)りをして、もちろんおばさんもいて、子どもたちだけで夜をすごすなんていう予定じゃなかったのに。
まだ9歳(さい)になったばかりのユキトやシュンスケ、あと3カ月たたないと9歳の誕生日(たんじょうび)がこないケンタの小学3年生3人組には大冒険の夜になりそうでした。
パパとママの仕事がいそがしいので、ユキトは夏休みの間、おじさんの家にお世話になっていました。そしてシュンスケやケンタと仲よくなりました。
ユキトは背(せ)が高くて運動が好きな少年。シュンスケは色白で本を読むのが大好き。そして、ケンタは小がらで日に焼けた男の子です。見かけはちがうけれど、何となく気が合うのです。
ところで、ユキトのおじさんの仕事はちょっとかわっていて教会の牧師(ぼくし)さんなのです。ですからお家は教会のしきちの中にありました。古いいなかの教会ですから、ふつうの家の10けん分ぐらいもある広いお庭の中に、いろんな木がうわっていて、教会堂はまるで植物園の中にたてられているようでした。
秋には真っ赤になるモミジが3本もあります。黄色のひらひらする葉っぱをいっぱいつけるイチョウの大木もあります。冬に実をつける大きなゆずの木もあるし、その横には、背の高いロウバイもあります。バラの木もたくさんあります。
まだ夏なので、今は分からないけど、きせつ、きせつにそりゃあ、とても見事なのよというおばさんの言葉を聞いて、ユキトはノートに名前を書きとめました。アジサイやボケ、ハギやススキ、コスモス、キク、チューリップやクロッカス、ポリアンサスイセンやユリ、きせつごとにいろんな草花がわすれずに顔を出します。おばさんの話ですけどね。
教会堂のうら手におじさんの家はありました。牧師さんの住む家ですから、牧師館と呼ばれていますけれど、新しくたてなおされたので少しもかわったところはありません。どこにでもあるふつうの家です。窓(まど)の下には朝顔がうえてあり、ユキトは水やりの係をまかせられました。
門から入ると右側にコンクリートでほそうされた駐車場(ちゅうしゃじょう)もありますから、古い教会にしては、きちんと整えられていますけれど、教会堂だけは昔のままなのです。足の不自由な人が入りやすいような平らな入り口ではありません。神様をおがむ神聖(しんせい)な場所だから高い所にある方がいいと、昔たてた人たちは考えたのでしょう。
バリアフリーにしたくても無理なんだよ。県の文化ざいだから勝手に改ちくもできないし」。お年よりの方が、階段(かいだん)を上がるのを見ながら、いつもおじさんは申しわけないなあと思うのだそうです。
入り口に石の階段があって、階段を上がるとがっしりしたとびらがあります。日曜日にはこのとびらは開いていますが、いつもはしまっています。中に入ると受け付けの小部屋があり、その奥(おく)にドアがあって、100人も入れそうな広い礼拝(れいはい)堂に長いすがならんでいます。でも20人くらいしか礼拝に来る人はいないのです。
右の横側にも引き戸で仕切られた部屋が2つありますが、1階にはそんなに面白い場所はありません。礼拝堂のつき当たりの左手にオルガンが置かれていて、その奥に倉庫があります。講壇(こうだん)は木の階段を3段上るくらいの高さです。
講壇というのは、牧師さんが話をする舞台みたいなところで、その真ん中に説教壇があり、せいさん台もあります。説教壇とせいさん台にはぶどうのちょうこくがついています。講壇の右側の奥にはドアがあって、ドアを開けると階段があり、上ると2階の部屋があり、その上は塔(とう)につながっているのです。
この階段を上って、自分たちだけで塔のてっぺんまで行けたらいいなと、子どもたちは思っていましたけれど、夜はあぶないからやめなさいと言われるだろうと分かっていました。そして牧師館からは廊下を通って教会堂のうら側につながるドアがありますので、そこから出入りできるつくりになっていました。
教会には大人だけでなく子どもたちも集まります。日曜の朝、大人の礼拝の前に、教会学校という子どもたちの礼拝もあります。シュンスケのパパは教会学校の校長先生です。ケンタのママは幼稚園(ようちえん)の先生で、ピアノが上手なので、大人の礼拝や子どもの礼拝のオルガンをひいています。そういうわけで2人は教会学校の生徒なのです。教会の学校なので、英語でチャーチ・スクール、りゃくしてCSと言います。
ユキトの家は車で2時間もはなれた場所にあるので、いつもは来られないけれど、この夏はCSに出席し2人と仲よくなりました。CS礼拝が終わると、わきの小さな部屋で、絵をかいたり、本を読んだり、庭に出て遊んだりします。でも、今日は特別に牧師館で、3人だけのお泊り会をしてもいいということになり、みんなワクワクしていました。
夕ご飯も終わり、お風呂(ふろ)にも入って、さあ何をして遊ぼうかと、本当はゲーム機で遊びたかったのですが、今日はだめと言われていたので、考えていたところに電話がかかってきました。(つづく)
次回へ>>
◇1944年生まれ、福岡市出身。1965年、福岡バプテスト教会で受洗、のちに日本基督教団の教会に転入し、Cコースで補教師試験に合格。1996年より我孫子教会担任教師、2005年より主任担任教師となり、20年間在職。現在日本基督教団隠退教師。
九州大学文学部卒業。東京都庁に勤務後、1978年より2002年まで、船橋市で夫と共にモンテッソリー教育を取り入れた幼児教育や、小中学生対象の教えない教育という、やや風変わりな私塾(レインボースクール)を運営。
童話「星のかけら」は、小学生の孫のために書いたものですが、教会学校の子どもたちが少なくなっている今、お話を通して教会や神様に少しでも出会える場が与えられればうれしいです。

【童話】星のかけら(2)冒険のはじまり・その2 和泉糸子
コラムニスト : 和泉糸子
 
 教会のお年よりが急に具合が悪くなって、もしかしたら亡(な)くなるかもしれないので、出かけるけれど、君たち3人だけで留守番しても大丈夫(だいじょうぶ)かと聞かれて、大丈夫、大丈夫と3人は答えたのです。
あわただしく牧師さんたちは車で出かけていきました。
月山のおじいさん、大丈夫かなあとシュンスケは心配になりました。小さいころからよく知っている人が亡くなるかもしれないというのは、不安になりドキドキすることだからです。
ケンタは引っこしてきて1年くらいなので、月山さんのことをよく知りません。体の具合が悪くてずっと教会を休んでいたからです。
ユキトもその人のことは知りませんが、死ぬってどんなことだろう、ぼくはまだ死にたくないなあと思いました。大人になってずっとたって、おじいさんになってから死ぬのは仕方ないけど、おじいさんになっても、死ぬのはこわいかなあと思いました。
でも3人ともこれからの冒険を考えると、だんだんとワクワクの気持ちの方が強くなりました。
「夜の教会をたんけんしてみようよ」と、ユキトが言いだすと、みんなはパジャマのままで、立ち上がりました。台所から懐中電灯(かいちゅうでんとう)を見つけて来て、手に持って教会の方に移動(いどう)しました。暗いのはいやなので、部屋の電気も廊下の電気もつけたままです。
教会につながるドアは開けたままにしておきました。帰れなくなったら大変ですからね。こういうように3人はとてもしんちょうに事を運んだのです。
懐中電灯をつけて、礼拝堂の壁(かべ)をさぐるとスイッチがありました。「もっと懐中電灯があればいいけど」と、ユキトが言うと、「まかしとけ」と言って倉庫の中からシュンスケがペンライトを持ってきました。
「これ、クリスマス会の時に使ったんだ。後かたづけを手伝ったから入れてある場所が分かった」「おてがら、おてがら」。みんなはペンライトを2本ずつ持って・・・。ユキトは大きな懐中電灯を持っていますから、ペンライトは1本にしましたけどね。階段を上って、2階に行きました。
そこは7、8人が会議できるくらいの部屋で、大きな分あつい本が本だなにならべられ、壁には昔の牧師さんの写真がかざってあり、窓には赤や青や黄色の花もようのきれいなステンドグラスがはめてあります。真ん中に大きなテーブルと折りたたみいすが置かれ、すみっこに古いひじかけいすと小さな机(つくえ)もあります。
電気をつけても、かなり暗いので、お化けでも出てきそうな気がして、びくびくします。何しろ、壁のがくぶちに入った大きな写真は白黒写真で、ひげを生やして着物を着た人や、丸いメガネをかけてしせいをピンとした昔の人たちが、にこりともしないで写っているし。おまけになんだか光っているものがゆらゆらしています。「キャー」っと、ケンタがさけびました。「お化けが出た!」。
「びっくりしたなあ。光るパジャマなんか着てるのだれだよ」と、シュンスケが言います。
「教会にはお化けは出ないよ、きっと」とユキトは小さな声で言いました。実はヒーローの絵のついた光るパジャマは、お気に入りでしたけど、なんだか間(ま)が悪いなあと思いました。そうしたら、「でも、もしかしたら、悪魔(あくま)が出てくるかもしれないじゃないか」とシュンスケがおどかしました。「イエス様は悪魔に勝ったんだよ」、こわがりのケンタも負けずに言います。教会学校のお話で「あらののゆうわく」というのを聞いたことがあったからですが、もしも悪魔が出てきたらどうしようと思って、ぞっとしたからです。
その時、小さな鐘(かね)の音のようにも、すずの音のようにも聞こえる音がしたのです。どうやら、上から聞こえてきます。3人は顔を見合わせて、どうしようと、目で相談しました。こわい時って、声が出ないものですね。でも、目で相談し合うことはできるのです。
「行こうか」「上へ行くの」「なんかこわい」。そんな声にならない声で3人は相談して、でも、とうとう、階段を上ることにしました。シュンスケとケンタは初めてのけいけんです。ユキトはおじさんに頼(たの)んで一度だけ、階段を上ったことがありました。「ここから先は電気がないよ」「わかった。ペンライト」
少し曲がった階段。途中(とちゅう)におどり場があって、そこには窓があります。窓から、月の光が少しだけさしているようです。そうしてもう少し上ると、もう一つおどり場があります。壁の中についている階段ですので、冷たい風はふいて来ませんし、雨の日でも平気でしょうが、今は夏ですし、天気も悪くありません。コウモリに出会うこともなく、階段の行き止まりまできました。
入り口にはドアがないのでそのまま入ると、その先は小部屋になっていて、天じょうに鐘がつるしてありました。壁には小さな丸いガラスがはまっていますので、のぞけば外の景色が見えるはずです。でも子どもたちは、景色を見るよゆうもなく、目をまんまるにして鐘のある場所を見ていました。
すんだ音色の、小さな鐘の音がしています。そして、そこには今まで見たこともない不思議な人がいたのです。(つづく)