「聖書をメガネに 桐生悠々の名を初めて聞いたあの時」の,小さくない恵みの波紋 その29 森弥栄子姉の第29話 使徒言行録3章1−10節

「聖書をメガネに 桐生悠々の名を初めて聞いたあの時」の,小さくない恵みの波紋 その29 森弥栄子姉の第29話 使徒言行録3章1−10節


第二十九話 美しい門(使徒言行録 第三章一〜一〇)

ペトロとヨハネが、午後三時の祈りの時に神殿に上っていた。すると、生まれながら足の不自由な男が運ばれてきた。神殿の境内に入る人に施しを乞うため、毎日「美しい門」という神殿の門のそばに置いてもらっていたのである。彼はペトロとヨハネが境内に入ろうとするのを見て、施しをこうた。ペトロはヨハネと一緒に彼をじっと見て、「わたしたちを見なさい」と言った。その男が、何かもらえると思って二人を見つめていると、ペトロは言った。「わたしには金や銀はないが、持っているものをあげよう。ナザレの人イエス・キリストの名によって立ち上がり、歩きなさい。」そして、右手を取って彼を立ち上がらせた。すると、たちまち、その男は足やくるぶしがしっかりして、躍り上がって立ち、歩き出した。そして、歩き回ったり踊ったりして神を賛美し、二人と一緒に境内に入って行った。民衆は皆、彼が歩き回り、神を賛美しているのを見た。彼らは、それが神殿の「美しい門」のそばに座って施しを乞うていた者だと気づき、その身に起こったことに我を忘れるほど驚いた。

エスさまが、十字架にかけられ、三日目に復活されたという、エルサレムの町には、エルサレム神殿がありました。エルサレム神殿には、非常に美しい門がありました。金と銅で飾りがほどこされていました。人々は、その門を、「美しい門」と呼んでいました。

今朝は、その「美しい門」のそばであった出来事のことをお話しいたします。イエスさまは、もういらっしゃいませんが、イエスさまから聖霊をプレゼントされているペテロさんとヨハネさんの二人が、ある日のこと、エルサレム神殿に、礼拝に行きました。それは、お昼の三時の礼拝でした。二人が、神殿の「美しい門」のところにさしかかりますと、その時、一人の男の人が誰かに抱えられてやってきたのです。男の人は、生まれた時から足が不自由で歩けない、気の毒な人でした。自分で働いてお金を得ることもできませんでしたから、毎日、「美しい門」のところに連れてこられて、お宮参りに来る人々から、お金をもらって生きていたのです。

ちょうど、ペテロさんとヨハネさんが、「美しい門」を入ろうとしましたら、足の不自由な男の人が、しゃがんでいて、「何か、お金をくださいませ」と、施しを願いました。力のない弱々しい目つきでペテロさんたちを、あまり見ないで言いました。

ペテロさんは、じっと、その男の人を見つめました。深い、いたわりの思いがペテロさんに湧いてきました。そして、「わたしを、見なさい」と、優しく言いました。
男の人は、ペテロさんを見上げて、何かもらえるのかなと思いました。ペテロさんは、この男の人を、命にあふれた人にしてあげたいと、強く思って見つめていました。
そして、ペテロさんは男に言いました。「金や銀は、わたしにはありません。けれど、わたしの持っているものを、あなたにあげましょう」と。ペテロさんも、その男の人と同じように、金も銀も持ってはいないのでした。けれど、男の人にあげることのできるものを持っていたのです。男の人は不思議に思ったことでしょうね。何をくださるというのでしょう。

それは、「イエス・キリストの名によって歩きなさい」と、いうプレゼントだったのです。ペテロさんは、男の人に、イエスさまのことを話して聴かせたのでしょう。イエスさまが十字架につかれたこと、そして三日目に死に打ち勝って復活されたという、福音についてお話ししたのでしょう。そして、父なる神さまが、この世の人々のあらゆる罪をお赦しくださるために、おつかわせてくださった、神のみ子、イエス・キリストを信じていく信仰によって、歩いて行きなさいと、ペテロさんは男の人を聖霊の力によって励ましたのです。男の人がイエスさまの出来事を信じたとき、人々が想像もしなかったことが起きたのです。それは、歩けなかった男の人が、ペテロさんのさし出した手に支えられて、立ち上がり、歩き出したのです。不自由だった足とくるぶしとが、強くなって歩き回り、踊りだしたというのです。歩けなかった人が、自分の足で歩けるように強くなったのです。どんなに男の人が喜んだか、みなさんは想像できますでしょう。男の人が本当に欲しかったのは、金や銀よりも、ペテロさんが持っていた、目には見えない信仰だったようです。イエスさまを信じる信仰が、どんなに力強いものか、「美しい門」のお話が教えてくれます。男の人は、ペテロさんたちと一緒に歩いて「美しい門」に入り、神さまに心から感謝を捧げて、喜びました。

わたしたち、一人一人にも、心の中にはいつもイエスさまの信仰に導いてくださる「美しい門」が開いています。そして、「美しい門」から入る勇気を出しなさいと、神さまは、わたしたちに手をさしのべていてくださいます。
一九八七・七・五