童話】星のかけら(3)冒険のはじまり・その3、星のかけら(4)冒険のはじまり・その4、星のかけら(5)クリスマス・その1、星のかけら(6)クリスマス・その2、星のかけら(7)クリスマス・その3 

【童話】星のかけら(3)冒険のはじまり・その3、星のかけら(4)冒険のはじまり・その4、星のかけら(5)クリスマス・その1、星のかけら(6)クリスマス・その2、星のかけら(7)クリスマス・その3 

クリスマスが近づきました。ケンタはお父さんから月山さんがレインボー・ホームに入ったことを聞きました。ケンタのお父さんはこのホームでお年よりのお世話をする仕事をしています。お年よりが毎日お泊まりをしてくらす老人ホームが上の階にあり、1階にはデイケアといって、朝夕車で送りむかえをしてもらって通ってくる人たちがいる、そういう所なのです。
月山さんは奥さんが亡くなって1人ぐらしをしていましたが、具合が悪くなりしばらく入院をしていました。たい院してまた1人でくらすのは大変なので、ホームに入ることになったのです。
ケンタは月山さんに会ったことがありません。でも、夏休みに3人で冒険したあの日に、月山さんのためにお祈りしたことをわすれたことがありませんでした。牧師夫人から聞いた不思議なお話もよく覚えていました。
ですから、クラスメートのシュンスケに月山さんのことを話すと、ユキトもいっしょに月山さんのお見まいに行こうよという話になりました。
冬休みにまた、ユキトが牧師館に来ていて、3人はクリスマス劇(げき)の練習をいっしょにしていたからでした。
月山さんはベッドの中で眠(ねむ)っているようでした。ケンタは月山さんに声をかけたらいいのかどうか、まよっていました。すると、シュンスケがトントンとかたをたたきました。ベッドの横のテーブルを指さして、ネッというような顔をしています。かざってあったのはイースターの卵でした。
ユキトは大たんに手に取っています。「これ、焼き物のようだよ」。シュンスケもケンタも手にとってながめました。
ビタエが石に変えたあの卵に似(に)ているような気がしました。でも、ここにあるのは似ているけれど別のものにちがいないと、ケンタは思いました。あの卵はバケツに入れて全部ビタエにわたしたはずでしたから。それにかざり物の卵は少しでこぼこしていて、ユリの花の絵がかいてあるだけの、あっさりしたものでしたから。
月山さんは軽い認知症(にんちしょう)だから、言っていることが分からないかもしれないよと、ケンタはお父さんに聞いていました。認知症というのはお年よりの病気なのだそうです。朝ご飯を食べたことをわすれて、ご飯はまだですかと聞いたり、自分の家族に向かって、どなたですかと聞いたりするのだそうです。
月山さんが目を覚ましたら、なんて言ったらいいのだろうとケンタは思いました。でも、月山さんはよく眠っていて、なかなか目を覚ましそうにありませんでした。
「月山さん、絵がうまいんだよ。自分で絵をかいた紙芝居を教会学校でしてくれた。ろうそくがなみだを流すお話」
「面白そうだね。どんな話」「ええっ、わすれちゃった。そこだけ覚えてる」
シュンスケとユキトのやりとりを聞いているうちにケンタはいいことを思いつきました。
「ねえ、クリスマスの歌を歌おうよ。月山さん、きっと喜ぶよ」
子どもたちは劇の中で歌うクリスマスの歌を歌いました。
「うれしい、うれしい、クリスマス。かん、かん、かん、かん、かねのおと。子どものすきなイエスさまの...」
すると、月山さんがうっすら目を開けて、うれしそうに笑いました。そして、いっしょに歌い出したのです。「たのしい、たのしい、クリスマス」って。
子どもたちもいっしょに歌いました。「りん、りん、りん、りん、すずのおと。サンタクロースのおじいさん、よい子をたずねて、そりのたび...」
「月山さん、ぼくたち、お見まいに来ました。これ、プレゼントです」。ケンタのプレゼントは、金色の星のついたクリスマスツリー。シュンスケのプレゼントは、赤いリボンのついたリース、そしてユキトのプレゼントは、ふわふわの白いわたのついた長ぐつでした。どれも折り紙で作ったものでしたけど、月山さんはにこにこして一つ一つ手にとって、「ホー、君たちが作ってくれたんか」と言って、喜んでくれました。
そして、「もうクリスマスか」って、少しウルウルした目をして、つぶやくと、目をとじて、また眠ってしまいました。
その晩、月山さんは夢を見ました。子どものころの月山さんが、絵かきのおじさんのアトリエに遊びに行った夢でした。昔、昔のことでしたのに、まるで昨日のことのように思えました。
おじさんのアトリエには地下室があって、せまい階段を下りると、下は物置になっていましたけど、その一すみに、小人の家族が住んでいました。おじさんは時々パンや水を、この小人たちに分けてあげていました。月山さんはぐうぜん小人の一家を見つけてしまい、びっくりしておじさんに話しました。
「だれにもナイショだよ。お父さんやお母さんにもだまってるんだよ。あの人たちは数が少なくなって、かくれてくらしているんだから」。おじさんは言いました。
「小人は長生きだけど、なかなか子どもができない。でもあの家族には子どもがいて、命をつないでいくことができる。幸せな家族だけど、ほかの小人たちとなかなか出会うことができずにいるから、何とかして助けてあげたいと、ぼくは思っている。つねくん、君も仲間になってくれるかい」
つねくんというのは月山さんの子どものころのよび名でした。
月山常雄(つきやま・つねお)というのが、本当の名前でしたけどね。(つづく)和泉糸子

★【童話】星のかけら(4)冒険のはじまり・その4  
「人の子たちよ」と、その不思議な人がよびかけました。その人は小人だったのです。お話の絵本に出てくるような曲がった鼻もしていませんし、赤黒い顔もしていません。白いひげも生えていません。両手の親指を合わせてまっすぐのばしたより少し大きい位の、小さな男の人ですが、きりりとした顔立ちをしています。
小人って本当にいるのだなあ。びっくりした。お話の中に出てくるだけかと思っていたのに。ユキトは、その人になんと言っていいのか分かりません。でも、よびかけられたのだから、返事をしなくては失礼になるかなあと思いました。シュンスケもケンタも声が出ません。
だまったままで子どもたちが顔を見合わせ、どうしようかとなやんでいますと、「人の子たちよ、わたしたちを助けてはくれまいか。正しい心と勇気を持つならば」と、その人が重々しい声で言ったのです。
小人の声は体のわりには大きなひびく声でした。塔のてっぺんは音のひびきがいいのかもしれませんけどね。
正しい心、勇気・・ぼくたちにあるだろうか。お化けがこわくて、悪魔が出てきたらどうしようと思っていたのに、小人に会うなんて。夢(ゆめ)を見ているのだろうかと、子どもたちは思いました。
「なにかおこまりなのですか」。ユキトはせいいっぱいていねいな言葉を使って、勇気を出して、小人にたずねました。「ぼくたちにできることですか」。シュンスケが言うと、「勇気がなくてもいいのかなあ。ぼくはこわがりだし」。ケンタも言いました。「それに正しい心を持っているかどうか、分からないし」。ユキトも心の中でつぶやきました。
鐘の音がだんだん大きくなり、そして、あたりがボオッと明るくなり、一すじの道が見えてきました。にじのように七色ではないけれど、空にかかった橋のようなやわらかい色をした道です。
「人の子たちよ、この道を通って来てください。わたしの後について」
小人が言うと、「行きます。でも、ぼくたちは人の子ではなく、ちゃんと名前があります。ぼくはユキト、そして」と言いかけると、シュンスケもケンタも自分の名前を言いました。
小人は笑って言いました。「ではユキト、シュンスケ、ケンタ。わたしの後について来てください。わたしの名前はビタエと言います」
そして、「いいですか、この道は選ばれた者にしか見えない道です。あなたがたにはこの道が見えますね」と3人に聞きました。
「見えます」「きれいな色の道ですね」「どこまで続いているのですか」。口ぐちに言うと、「それならば、あなたがたは選ばれた者なのです。そして、この道は正しい心と勇気を持った者しか通ることのできない道なのです」と、ビタエと名乗った小人は重々しく言いました。
そうやって、3人は小人の国に来ました。あの道が見えて、通れたのですから、小人のビタエが学校の先生でしたら、君たちは正しい心と勇気を持っていますと二重丸をつけてくれたことでしょう。でも、本当にぼくたちは正しい心を持っていて、勇気もあるのだろうかと3人とも自信がありませんでした。
算数の計算なら答えがあっていると自信を持てても、読書感想文を書くときには、これでいいのだとは思えませんね。それ以上に全然自信がないことでした。
3人は、おそるおそる周りを見回しました。こわい動物が出てきたらどうしよう。お化けが出てきたらどうしよう。でも、ちょっと見たところ、大きな動物はいないようです。犬やねこもいないし、小鳥さえいません。
背の低い木が生えていますし、花も咲いています。ちょうちょが花の上をひらりひらりと飛びまわっているのがただ1つ見かけた生き物でした。空には雲もありました。でも夜のはずなのに月も星もなく、少しも暗くないのです。それに、ほかの小人たちはかくれているのか姿(すがた)を見せません。小さな家はあちこちに見えるのに。
きょろきょろ見回していると、「ここです。この大きな池の水をくみ出してほしいのです。わたしたちには大きすぎて、やっても、やっても無理でした。あなたたちの力が必要なのです。助けてください」というビタエの声がしました。
それは池というよりも、保育園(ほいくえん)の庭に置いて遊ぶ大きめのビニールプールくらいでしたけれど、くみ出し始めると底が深いことが分かりました。
3人はお砂遊びのバケツのような小さなバケツに水を入れては、ビタエに教えられた場所まで運んでせっせと水をまきました。
いつの間にかビタエの姿は見えなくなり、木のかげになんだか動いている姿のようなものが見えかくれしていました。
そうやって、ようやく池の底が見えてきますと、そこにはいろんな絵がかいてある卵(たまご)がぎっしりとつまっていたのです。(つづく)

★【童話】星のかけら(4)冒険のはじまり・その4 和泉糸子

「あっ、イースターの卵だよ。教会のお庭にかくして卵さがしをやったのに、1つも見つからなかったんだ」「こんなところにあったなんて」。シュンスケとケンタは口ぐちに言いました。イースターは4月でしたから、もう4カ月もたっているはずですのに、イースターの卵はいやなにおいもせず、きれいなままでした。おまけに持ってみると重いのです。
「これ、ゆで卵じゃない。焼き物みたいだ」
「だけど、ぼくたちが作ったのとそっくりだよ」
「変だねえ」
口ぐちに言っていますと、だれかが近づいて来ました。
なんと、それは子どもの小人、3人の男の子たちでした。
「ごめんなさい。ぼくたち、いたずらをして、卵をかくしたの」
「持って帰るのとても重かったけど、おし車にのせて運んだんだよ」
「でも、途中(とちゅう)で落としちゃったの」
「ビタエ様が、石に変えてくださったの。くさるとばいきんが広がって病気になるかもしれないでしょ」
「でも、水の底にしずんで取り出せなくなってしまったの」
「外に出ちゃいけないってビタエ様に言われたんだけど、気になって見に来ちゃった。でも、もう行かなくちゃ、見つかったらしかられるから」
「ありがとう、ええっと」
「ぼくはユキト」「ぼくシュンスケ」「ケンタだよ」
「君たちは?」
「アルム」「ブラン」「グリー」
「また会えるかな」
「きっといつか」
あく手した手の中に、小さな貝がらのようなかけらが入っていたのを見つけて、3人の子どもたちはポケットの中にそっとしまいました。
そして、もとの仕事にもどり、バケツの中に卵を入れ終わると、池はすっかり消えてしまいました。「終わったね」。子どもたちが一息ついていますと、いつの間にかビタエがそばに立っていました。
「ありがとう。本当に助かりました。今日のことはどうぞ秘密(ひみつ)にしてください。お礼に差し上げたいものがあります。受け取ってください。ユキトさまには赤いかけらを、シュンスケさまには青いかけらを、ケンタさまには緑のかけらを差し上げます。これを大切にして、わたしたちのことを時々思い出してください。でも、だれにも話さないでください、指きりげんまんですよ」
3人がそれぞれのプレゼントを受け取ると、また鐘の音が聞こえ始め、気がつくと3人は塔の部屋にもどっていました。夢ではないしょうこに、3人はそれぞれにきれいな色の星のかけらのような石を手ににぎりしめていました。
それからどうしたでしょうか。3人はもと来た道を通って礼拝堂にもどり、いすにすわってお祈(いの)りをしました。
「神様、ぼくを正しく、勇気のある子にしてください」
「月山のおじいさんを元気にしてください」
「また小人の国に行けますように」
こんなお祈りをして、最後に「イエス様のお名前によって、お祈りします。アーメン」といっしょに声を合わせて言いました。教会学校でお祈りを習っても、今まではなかなかお祈りしなかったのに、どういうわけだか、真夜中の礼拝堂で子どもたちはお祈りをして、そっと電気を消して、牧師館の廊下に来ると、ドアをしめてかぎもかけて、廊下の電気とほかの部屋の電気も消して、おふとんの中にもぐりこみました。お部屋の電気はみんなの顔が見えるていどに、豆球だけは灯したのですけどね。
翌(よく)朝、目が覚めると、月山のおじいさんはかなり良くなったよと、おじさんが言いました。3人でよくお留守番してくれましたねと、おばさんもにこにこしました。
「不思議なことがあったのよ。あんなにいいお天気だったのに、急に雨がふってきて、しばらくしたら、月山さんがねごとを言われたの。イースターの卵を運んでくれって。そして、のどにつまりかけていたたんが取れて、大きく息をされたのね。それから急に良くなってこられたので、安心して帰ってきたのよ」
小人のビタエとの約束です。正しく勇気のある子どもになりたい3人は、秘密を守りました。
ぼくたちのしたことは、小人を助け、また月山さんを助けるお手伝いだったのだろうか。ふってきた雨は、ぼくらのかき出した池の水だったのだろうか。
ビタエというのは魔法使いなんだろうか。
あのアルム、ブラン、グリーという小人の子どもたちにまた会えるだろうか。もっと話ができたらよかったなあ。
あの塔のてっぺんの部屋には、小人の国への入り口があるのだろうか。
3人は、こんなことを夏の間中、会うたびに何度も話し合いました。
分からないことだらけです。でも分かったことは、神様があの晩(ばん)のお祈りを聞いてくださったことと、世の中には不思議なことがあるという2つのことでした。
そして、小人のくれた赤いかけらは、もしかしたら、勇気をなくしそうになるときに、大丈夫だよと声をかけ、はげましてくれる星のかけらにちがいないと、ユキトは思ったのでした。(つづく)

【童話】星のかけら(5)クリスマス・その1 和泉糸子

クリスマスが近づきました。ケンタはお父さんから月山さんがレインボー・ホームに入ったことを聞きました。ケンタのお父さんはこのホームでお年よりのお世話をする仕事をしています。お年よりが毎日お泊まりをしてくらす老人ホームが上の階にあり、1階にはデイケアといって、朝夕車で送りむかえをしてもらって通ってくる人たちがいる、そういう所なのです。
月山さんは奥さんが亡くなって1人ぐらしをしていましたが、具合が悪くなりしばらく入院をしていました。たい院してまた1人でくらすのは大変なので、ホームに入ることになったのです。
ケンタは月山さんに会ったことがありません。でも、夏休みに3人で冒険したあの日に、月山さんのためにお祈りしたことをわすれたことがありませんでした。牧師夫人から聞いた不思議なお話もよく覚えていました。
ですから、クラスメートのシュンスケに月山さんのことを話すと、ユキトもいっしょに月山さんのお見まいに行こうよという話になりました。
冬休みにまた、ユキトが牧師館に来ていて、3人はクリスマス劇(げき)の練習をいっしょにしていたからでした。
月山さんはベッドの中で眠(ねむ)っているようでした。ケンタは月山さんに声をかけたらいいのかどうか、まよっていました。すると、シュンスケがトントンとかたをたたきました。ベッドの横のテーブルを指さして、ネッというような顔をしています。かざってあったのはイースターの卵でした。
ユキトは大たんに手に取っています。「これ、焼き物のようだよ」。シュンスケもケンタも手にとってながめました。
ビタエが石に変えたあの卵に似(に)ているような気がしました。でも、ここにあるのは似ているけれど別のものにちがいないと、ケンタは思いました。あの卵はバケツに入れて全部ビタエにわたしたはずでしたから。それにかざり物の卵は少しでこぼこしていて、ユリの花の絵がかいてあるだけの、あっさりしたものでしたから。
月山さんは軽い認知症(にんちしょう)だから、言っていることが分からないかもしれないよと、ケンタはお父さんに聞いていました。認知症というのはお年よりの病気なのだそうです。朝ご飯を食べたことをわすれて、ご飯はまだですかと聞いたり、自分の家族に向かって、どなたですかと聞いたりするのだそうです。
月山さんが目を覚ましたら、なんて言ったらいいのだろうとケンタは思いました。でも、月山さんはよく眠っていて、なかなか目を覚ましそうにありませんでした。
「月山さん、絵がうまいんだよ。自分で絵をかいた紙芝居を教会学校でしてくれた。ろうそくがなみだを流すお話」
「面白そうだね。どんな話」「ええっ、わすれちゃった。そこだけ覚えてる」
シュンスケとユキトのやりとりを聞いているうちにケンタはいいことを思いつきました。
「ねえ、クリスマスの歌を歌おうよ。月山さん、きっと喜ぶよ」
子どもたちは劇の中で歌うクリスマスの歌を歌いました。
「うれしい、うれしい、クリスマス。かん、かん、かん、かん、かねのおと。子どものすきなイエスさまの...」
すると、月山さんがうっすら目を開けて、うれしそうに笑いました。そして、いっしょに歌い出したのです。「たのしい、たのしい、クリスマス」って。
子どもたちもいっしょに歌いました。「りん、りん、りん、りん、すずのおと。サンタクロースのおじいさん、よい子をたずねて、そりのたび...」
「月山さん、ぼくたち、お見まいに来ました。これ、プレゼントです」。ケンタのプレゼントは、金色の星のついたクリスマスツリー。シュンスケのプレゼントは、赤いリボンのついたリース、そしてユキトのプレゼントは、ふわふわの白いわたのついた長ぐつでした。どれも折り紙で作ったものでしたけど、月山さんはにこにこして一つ一つ手にとって、「ホー、君たちが作ってくれたんか」と言って、喜んでくれました。
そして、「もうクリスマスか」って、少しウルウルした目をして、つぶやくと、目をとじて、また眠ってしまいました。
その晩、月山さんは夢を見ました。子どものころの月山さんが、絵かきのおじさんのアトリエに遊びに行った夢でした。昔、昔のことでしたのに、まるで昨日のことのように思えました。
おじさんのアトリエには地下室があって、せまい階段を下りると、下は物置になっていましたけど、その一すみに、小人の家族が住んでいました。おじさんは時々パンや水を、この小人たちに分けてあげていました。月山さんはぐうぜん小人の一家を見つけてしまい、びっくりしておじさんに話しました。
「だれにもナイショだよ。お父さんやお母さんにもだまってるんだよ。あの人たちは数が少なくなって、かくれてくらしているんだから」。おじさんは言いました。
「小人は長生きだけど、なかなか子どもができない。でもあの家族には子どもがいて、命をつないでいくことができる。幸せな家族だけど、ほかの小人たちとなかなか出会うことができずにいるから、何とかして助けてあげたいと、ぼくは思っている。つねくん、君も仲間になってくれるかい」
つねくんというのは月山さんの子どものころのよび名でした。
月山常雄(つきやま・つねお)というのが、本当の名前でしたけどね。(つづく)

★【童話】星のかけら(6)クリスマス・その2
月山さんもわすれてしまいました。
けれど、どういうわけか、その夜は、切れ切れに、そんなことを夢の中で思い出しました。でも、目覚めると何もかもわすれてしまいます。
けれど、子どもたちのプレゼントがテーブルの上においてありました。
「クリスマスか」。もうすぐクリスマスかと、月山さんは思いました。なんだか、あったかいものが体の中をめぐっているようで、くすぐったいような感じがしました。
「あら、月山さん、今日は顔色がいいですね」。体温計をもって回ってきた看護師(かんごし)さんが、声をかけました。
それから間もなくの日曜日のこと。クリスマス礼拝が終わって、みんなでお祝いの会をするじゅんびをしていました。
12月25日ではなく、25日より前の一番近い日曜日に教会のクリスマス礼拝はあるので、まだ、シュンスケもケンタもサンタさんのプレゼントはもらっていませんでした。イブの夜に、ベッドのそばにくつ下をつるして、サンタさんがとどけてくれるのを待っているからです。
でも、ユキトはサンタさんのプレゼントを、もうもらいました。サンタさんがユキトの家に、特別に速達便でとどけてくれたんだよと言って、ママが持ってきてくれたからです。
「いいなあ、ぼくんちにも速達便でとどけてくれるようにサンタさんに頼んでもらおう」。ケンタが言うと、「ぼくはイブの夜にねないで、サンタさんに会うんだ」とシュンスケが言いました。
婦人(ふじん)会のおばさんたちが作ったごちそうがならびました。お食事が終わる頃に子どもたちの劇が始まるので、少しきんちょうしながらも、3人はお料理をたくさん食べました。
劇は教会学校の子どもたち全員でするのです。でも、全員といっても7人だけですから、一人一人の覚えなければならないセリフもたくさんありましたし、パパやママやおじいちゃん、おばあちゃんまで見に来ているので、ちょっと上がり気味です。
3人の博士が赤ちゃんイエス様をたずねるクリスマス劇です。ユキトはイエス様に黄金をささげる博士の役、シュンスケはにゅうこうを、ケンタはもつやくをささげる博士の役です。小さなリクくんは赤ちゃんイエス様の役。ベッドの代わりに2つならべて置いたいすの上で横になっています。わらの代わりにいすにはクッションがしかれ、黄色い毛布(もうふ)がかけてあります。
「あの毛布、プーさんの絵がかいてあるよ」ってだれかが言いましたけど、そんなこと関係なし。リクくんのお気に入りなんですから。
マリア様の役は1年生のマリちゃん。ヨセフさんは2年生のダイスケくんです。5年生のヒカルさんはナレーターです。
これで7人全員ですから、このシーンが終わると、早変わりをして天使さんと羊かいになるので、いそがしいのです。教会学校の先生も天使の役と星を持つ係に加わります。
「おほしがひかる、ピカピカ、ふしぎにあかく、ピカピカ、なにが、なにがあるのか、おほしがひかる、ピカピカ」
そんな、子どもさんびかを歌って、最後に「うれしい、うれしい、クリスマス」を歌うと大きなはくしゅが起こりました。
子どもたちはほっぺを少し赤くしながら、おじぎをしました。
すると、とつぜん、白いおひげを生やして、背中を曲げた、サンタクロースのおじいさんが、よろよろしながら登場して「ズドゥラースト・ビーチェ」と言いながら、子どもたち一人一人にふくろから出したプレゼントをくれました。
「なに言ってんのか分からないね」「すごい年よりだね」
びっくりしながらも「ありがとうございました」とお礼を言うと「スパシーバ」「スパシーバ」と、おじいさんが言いました。
「遠いロシアの国から、はるばるサンタクロースのおじいさんが来てくれて、とてもくたびれているけれど、君たちにプレゼントを無事にとどけられてうれしい」と言っておられますと、祝会の司会をしていた藤田さんが言いました。
プレゼントの箱を開けたリクくんが泣きだしました。
「サンタさんにお願いしてたのは、これじゃないのに」
藤田さんが、もじょもじょと、サンタさんの耳元で何か言うと、サンタさんがまた、分からない言葉で、何か言いました。
「リク君、このサンタさんは教会のよい子にプレゼントをとどける係のサンタさんなんだって。みんなのお家に行くのはまた別のサンタさんだから、大丈夫。リクくんの家にもイブの夜にサンタさんが来てくれるよ」
みんながもう一度「ありがとうございました」とお礼を言うと「ダ・スヴィダーニア」「スパシーバ」と言いながら、おじいさんは、またよろよろと転びそうになりながら、ドアの外に出て行きました。
トナカイがどこにつないであるのか、見たいなあとケンタは思いましたが、ママがオルガンをひき始めたので、またみんなでクリスマスの歌を歌いました。
「アンコール」「アンコール」という声がかかったからです。
「おじいさん、無事に帰れたかなあ」「すごい年よりだったね」「ぜったい100さい以上だよ」
子どもたちはしばらくの間、このお年よりのサンタさんの話題で盛り上がっていました。ほんとうのところは、教会のおじさんがサンタさんのかっこうをしていたのですけど、あまりにも上手だったので、子どもたちはロシアからサンタさんが自分たちのところに来てくれたのだと、信じていました。わけのわからない言葉を話すサンタさんなんて、ほかには、どこにでもいるはずがないですものね。(つづく)

★【童話】星のかけら(7)クリスマス・その3 
クリスマスイブの夕べになりました。少し暗くなると、外の大きな木につけたイルミネーションがキラキラかがやき出しました。昼の間お日さまの光をためたライトは、あたりが暗くなるとひとりでに光り出すのだそうです。
6時になるとイブ礼拝が始まりました。教会堂の電気は消えていますが、長いすの前の机には、1本ずつろうそくが用意され、ほのかな光の中でさんびかを歌ったりお祈りをしたり、牧師先生のお話も、とてもわかりやすいやさしいお話ですし、いつもより短いので、子どもたちもたいくつしません。
きよしこの夜」を歌って、ほかの何曲かむずかしい歌を聞いて、最後に大きな声で「もろびとこぞりて」を歌いました。
ケンタは教会学校の先生に「もろびとって、どこの国の人ですか」と聞いて、「世界中の人みんなという意味だよ」と教えてもらって、そうなのかと新しい知しきを得たばかりでしたので、大きな声で「もーろびと こぞりて」と歌いました。
礼拝が終わって、電気がついた会堂の中は、ふき消したろうそくのけむりで、のどがイガイガしましたけれど、大人の人たちがすぐに窓を開けてくれ、紅茶(こうちゃ)とチョコレートとクッキーをもらいましたので、満足でした。
いつもは、夜、紅茶なんて飲まないのに、大人になったような気分でした。おまけに今から、クリスマスのキャロリングに行くのです。聖歌隊(せいかたい)の大人に交じって、3人組も出かけることがゆるされたからです。
行き先はレインボー・ホーム。ケンタのパパのつとめさきで、月山さんがいる老人ホームです。ケンタのパパやママ、シュンスケのパパやママ、それにユキトのママもいっしょに行きました。
最近はイブのキャロルも音がうるさいと言われて、昔のようにみんなの家を回れなくなったそうです。レインボー・ホームは1階の部屋の中で歌ってもいいとゆるしてもらえたけど、さわいじゃだめだよって、子どもたちは言われていました。
でも、夜、大人に交じってクリスマスの歌を歌うなんて、大こうふんでした。何人かのお年よりの中に月山さんがいました。車いすにすわった月山さんは元気そうでした。
クリスマスの歌を何曲か歌って、「メリークリスマス、メリークリスマス、メリークリスマス、ツーユー、メリークリスマス、メリークリスマス、メリークリスマス、ツーオール」と最後に短く歌い、みんなで「クリスマスおめでとうございます」とあいさつをしました。プレゼントを一人一人に配って、それから牧師さんが月山さんとあく手して、いろんな人が月山さんに声をかけ、最後に子どもたちも月山さんのそばに行きました。
「ああ、きみたちか」。月山さんは覚えていてくれました。そして、「プレゼントのお返しだよ」と言って、紙に包んだプレゼントを3人に1つずつ、わたしてくれたのです。
その翌日、3人は教会に集まりました。大人の人たちが後かたづけをしています。子どもたちは庭のすみっこで秘密会議をしています。ケンタのもらったプレゼントは緑のかけら、シュンスケのは青いかけら、ユキトのは赤いかけらでした。
おまけに小人のビタエからもらったプレゼントに重ねると、ぴったり合ってきれいな丸い玉になったからです。
「月山さん、ビタエに会ったことがあるんじゃないかな」
「どうして3つもかけらをもっていたんだろうか。どうしてぼくたちのもらったかけらの色がわかったんだろうか」
「こりゃあ、どうしても、もう一度月山さんに会わなきゃならないなあ。でも月山さん、認知症なんだよ。日によって具合のいい時と悪い時があるんだって。眠っている時もあるし」
「それに、今日の夕方、家に帰らなきゃならないし」とユキトが言うと、「じゃあ、今から行こうよ」「月山さんにプレゼントのお礼を言いに行くって、ことわって来るから」とケンタが言って、かけ出していきました。
「行ってもいいけど、車に気をつけなさいよって言われた」と聞くなり、子どもたちはレインボー・ホーム目指して、歩き出しました。ホームまでは20分くらいの道中でした。いいお天気で良かったですね。
月山さんはつかれて眠っていました。子どもたちは紙に「ありがとうございました」と大きな字で書きました。「ぼくの赤いかけらと、前にもらったかけらと合わせると赤い玉になりました・・ユキト」「青いかけらも同じです・・シュンスケ」「緑のかけらも玉になりました・・ケンタ」と、その下に書いて、「小人に会うにはどうしたらいいでしょうか」と、付け加えました。
まもなく正月になり、学校がまた始まって、ふつうの毎日が続きました。月山さんからは何の連絡(れんらく)もありませんでした。